2009年12月12日土曜日
「愛の流刑地」
僕は渡辺淳一が嫌いだった 渡辺淳一「愛の流刑地」を読んだ。いろいろ思うことがあった。まずは、僕がこの作家をどう思っていたかについて書きます。僕はこの作家が好きではなかった。それにはいくつかの僕の思い出がある。一番大きい思い出はこんなものだ。大学時代に同じバンドにいた男が、渡辺淳一のファンだった。そいつは初めからどこか、僕とは住んでいる世界が違うと感じていたのだ。軽薄で、まじめに生きる人間をあざ笑い、要領よく生きるんだよ。馬鹿な奴らを蹴落として生きるんだよ、と主張した。彼の取り巻きはまあ、個人的には何の取り柄もない平凡な男たちが集まった。そのなかでリーダーを気取っていた。僕よりも3つ年上だったから、確かに世の中の常識について、少し知識があった。危ない遊びを知っていた。そういうものに引き寄せられる人間はいるものだ。バンドをやっていた僕らが学園祭でライブを開いて、ただ一人僕だけに、ファンの女性から声がかかり、その子と3回ほどデートをした。3回目のデートで僕はその女性にセックスを拒否され、その女性の所属する短大との合コンで、その女性は、僕が嫌っていたその男とくっついた。コンパの場所で、僕の目の前で、その男と露骨にいちゃいちゃをはじめたのだ。夜明けまで続いたそのコンパのお開きに、僕はその女性の元に歩いていって、平手で彼女の頬を打った。それが僕の、大学時代の最初の恋愛と、失恋だった。その男が好きだと言っていたのが渡辺淳一だったのだ。彼の行動に、渡辺淳一はなんの責任もない。しかし、彼の行動に、渡辺淳一の小説が何らかの影響を与えていたのかもしれないと思うと、悔しさと恨み、そして、卑しいものを蔑む意識のようなものが、彼という存在を通じて、渡辺淳一の作品に向かっていったように思う。実は僕は彼の作品を全く読んだことがない。「失楽園」はDVDを見た。特別なきっかけもなく、男女が惹かれ合って、追いつめられて、心中するという、平凡な作品だと思った。黒木瞳のヌードだけが魅力の作品だと思った。彼が医者であるということも、僕が渡辺淳一を好きになれない理由だった。世の中の医者のイメージを、軽薄で、女好きで、女を自由にして自分勝手に喜んでいるという道楽と印象づけた。その姿を文章にして、世間に受けた。そういう、許せない存在、そういうのが渡辺淳一のイメージだった。ここまでが前段です。さて、「愛の流刑地」なのですが。上巻。これは、ほとんど全編、セックス描写です。全編と言ったのは、男女が出会うにはなにか心が互いにピンと惹かれあうなにか特別なものがあるのだろうと思うのだけど、そういう描写が全くない。ただ出会って、すてきだなと思って、次に逢うときには「好きだよ」で、セックス。これでいいの?と思った。繰り返し出逢うエピソードにも、たまに出会うために必死に時間を作ることくらいは書いてあるけど、出会いの中に互いの心の姿が、全く書かれてない。こういう、ただ出会って、セックスするだけの恋愛が、あるの?って何度も思った。その繰り返しが、ひたすら300ページ続く。ただ続く。そして、主人公が相手の女性を死に至らしめるくだり、そこまでに、なぜ二人がそのような異常な世界に至らなければならなかったのか、という説明がない。ただ、セックスを繰り返していたら、女性が盛り上がって、殺してと言うようになって、その通りにしていたら、死にました。といいたいようなほど、淡々とした、同じセックス描写の繰り返しだった。僕は不満だった。この人の恋愛観には、セックスしかないのか?ええ?しかし。下巻の半ばから、殺人を犯した主人公を裁判で裁く物語に繋がるのだが、すこしずつ、ただのセックスが、女性と男性との深い繋がりの姿を現しているのだということが、現れてくる。裁判所という、官能とは全く逆の世界にそのものが置かれること、検事が美しい女性で、女性らしい感覚で自分に有利な判断をしてくれるのではないかという誤算、そういった、対比的な設定が、女性の官能や、主人公と女性の本能で感じ合う世界の特別さを強調していた。そして、主人公の書いた作品がベストセラーになり、その裁判もまたマスコミの注目を浴びるようになるという流れ。多分作者は、このエピソードを書きたいために、この作品を書いたのだろうと思った。そして、僕が「これは参った」と思ったのは、裁判が終わり判決が下った後の、最後の5ページのエピソードだった。主人公が通ったパブの女主人からの手紙。「男が、愛する行為で女性を官能の世界に導き、女性を天国に連れて行ってしまうのは、とんでもない犯罪なのです。女性はその場所から、戻ることができなくなってしまう。もう、死ぬことしか選べなくなってしまう。この世に戻る場所がなくなってしまうのです。そういうことをあなたはしてしまった。それは大罪です。だから、この刑は、あの人が、あなたに与えた処罰なのですよ」700ページの作品、その中には同じ描写の繰り返しがあまりに多く、その繰り返しによって、主人公の意識に読者は引き込まれてしまうのだが、最後の5ページで、その意識が、ひっくり返される。まさに女性の言葉によって、男の思いが、覆されてしまう。それが、この作品が、僕に与えた衝撃(ここはあえて、衝撃といいます)だったのです。そして最後に、ここに描かれたような、特別な男女の愛の姿。そういう体験をしたことがあるか?と問われれば、僕のような恋愛の初心者には、とても、あるなどとは言えず、体験したくないかと言われれば、もちろん憧れなんだと思うのです。そういう世界を提示してしまえるということは、やはり、特別な作家なのだろうと、思うに至るのでした。いやはや、何とも悔しい限りなのです。
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